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建築家/高田 宏明

高田宏明アトリエ

住宅について想うこと

大切なことは、人も他の生物と同様に、太陽に向かう自然とともに生きていく他ない、ということではないかと思うのです。

3.11以降、ポスト資本主義や、高度情報化社会の流れとは異なる、自然に則したモノや空間が親密に感じられるようになりました。自然の持つ素材感、庇の下や土間空間など、屋外的な自然に近い場所を指向する住まいづくりに、これから目指すべき場所があるような気がします。以下に、これまで手掛けてきた住宅の中から、その手がかりとなりそうなものをいくつかあげてみます。

自然の持つ素材感

●左官仕上げの壁/福岡T邸リビング
(撮影:石井紀久)

福岡T邸のご主人は、家の中にいて、壁そのものを見ていることが多い、と言われています。壁という要素は住宅にとってとても重要である、と。
壁そのものというか、住空間の中には様々な要素があって、それらが程よく調和していること。その調和の中で壁が親しみの持てるものである必要があると思われますが、もう一つ重要なことは、壁そのものの素材感と質感、そして職人の手の跡ではないかと考えます。
福岡T邸の壁は熊本の天然の土を使った左官仕上げとなっています。これが例えば特徴のないビニルクロスだったりすると壁の親密な感じは薄れるのではないでしょうか。
左官仕上げで用いられる土は自然素材であり、よく見ると様々な色やかたちの粒の集まりです。そういう多様性がある自然のものを職人が手で仕上げていく。現在そこにあるに至った、気の遠くなるような時間の経過を経た自然素材の土、それを相手にモノをつくっていく職人の技工の確かさや、手の微妙な揺らぎを見るとき、私たちは機械によって大量生産された製品には無い、何かを感じるのです。

●左官仕上げの壁/T邸トイレのリフォーム
(撮影:高田宏明アトリエ)
●左官仕上げの壁/福岡T邸リビング
(撮影:石井紀久)

左側の画像は真壁づくりの住宅、トイレのリフォームですが、小舞の壁に墨入りの油漆喰を塗っています。壁仕上の微妙な凹凸は職人の手の痕跡で、プラスターボード下地とは異なる、小舞壁の厚みや重量感も不思議と感じることができます。腰壁の一部と天井は3ミリ厚のアルミ無垢板仕上となっています。
コンクリートは、冷たく味気ない素材であるように思われる方もいるかもしれませんが、コンクリートという素材もまた原料は石灰岩、砂利、砂、という天然のものです。丁寧に打設されたコンクリートはとても美しく多様性に満ち、味わい深いものです。昼と夜とで、また天候によって様々な表情をみせる素材であり、コンクリートをバックにすると、あたりまえのポスターや絵画、家具等がとても美しく見えてきます。
硬くて重い素材ですが、大切なことは、注意深く設計して丁寧にコンクリートを打設するということではないかと考えます。そうすることで、コンクリートは重厚でかつ親密な多様性に満ちた表情を見せてくれるようになります。

●木の質感/佐賀T邸
(撮影:井上茂)
●木の質感/佐賀M邸玄関ドア
(撮影:高田宏明アトリエ)

植物や木は太陽に向かって生きている生物で、放っておくと人やまちを飲込んでしまうくらい、生命力に満ちあふれています。人は古来より瞬く間に成長していく植物や木をうまく使いながら、それらと共存してきた歴史があります。また、木は大気中の二酸化炭素を自身の内部に取込み、酸素を大気中に放出します。材木とはCO2(二酸化炭素)からO2(酸素)を放出した残りであるC(炭素)の繊維と空気で構成されています。従って保温性があり柔らかく加工もし易い、エコロジカルな循環型の材料といえます。
木の年輪は自然の時の経過を瞬時に私たちの目の前に提示しているでしょう。人はそのような木に囲まれて暮らすことで、多層的な時の経過と、自然の側にいるような安らぎを得ることができると思われます。

庇の下と土間

●筑紫野K邸/土間のキッチン
(撮影:高田宏明アトリエ)
●宗像M邸/縁側空間
(撮影:イクマサトシ)

庇の下の空間は外部でありながら屋根だけが架けられた場所でとても開放的な気持ちのいい場所です。また土間空間も、内部であって外のように振舞える、おおらかで気兼ねのいらない自由な場所です。
日本において古くから数多くつくられてきた場所ですが、高気密高断熱で清潔な室内を目指す現代社会や、均質な人工的な美を求めた現代建築の一部は、このような場所が無くてもいいと考えました。しかし今、このような半分外部のような場所がとても大切なような気がしています。現代社会が捨てようとした何かとても大切なものがそこにあると思われるからです。

●高田宏明アトリエ/オフィス入口のポーチ
(撮影:高田宏明アトリエ)

自然を感じる住空間

現代の住宅やまちは自由主義経済の上に成立つもので、原子力や化石燃料を燃やすことを前提にしています。
そうすることで人は自然をある程度遠ざけ、人固有の環境/住空間をつくろうとしてきました。舗装され、土が見えない道や街区で構成されたまちや、ある程度清潔に保たれた住空間をつくり、外敵や害虫、疫病を遠ざけることで人は平均寿命を伸ばしてきたことを考えると、正しい選択かもしれません。しかしながら何かとても大切なものを捨ててしまってもいるでしょう。3.11以降、そのような大切なものを無視した未来はもう必要ではない、と思えるようになってきました。
大切なことは、人も他の生物と同様に、太陽に向かう自然とともに生きていく他ない、ということではないかと思われます。そのような自然を感じる住空間が今後ますます重要になってくるのではないかと思います。