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建築家/有吉 弘輔

ノットイコール一級建築士事務所

夢に形を与え、形に夢を与える仕事

夢を形にするだけでなく、その形を通して広く大きなさらなる夢を、目の前の人、はたまた世の中の多くの人々に魅せることができる、それが僕の思う設計家です。

「設計家は夢に形を与えるのだ」

映画、風立ちぬの一節でジャンニ・カプローニが二郎に向けて云った言葉。とても素敵な言葉です。僕はそれに次の言葉を添えたいと思います。

「設計家は形に夢を与えるのだ」

夢を形にするだけでなくその形を通して広く大きなさらなる夢を、目の前の人、はたまた世の中の多くの人々に魅せることができる、それが僕の思う設計家です。夢は美しく、夢は楽しく、夢は生きる希望です。それはいつの時代もどんな社会情勢の中でも、誰もが自分次第で描ける無償のエネルギー源です。
家づくりはそう一生に何度もできるものではないはず。ならば設計家に夢を託し、これから何十年と生きていく環境づくりのパートナーに選ぶことは、とても自然なことだと思います。一握りの勇気さえあればきっと夢が叶うことでしょう。

今夏、福岡市西区拾六町に当事務所の最新作となる16動物病院が開院しました。以下に数枚の写真と短いテキストですが、あえて少し専門的な感じそのままでご紹介させて頂いています。住宅ではありませんが、建築に対する切り口や考え方、そしてどのようなアウトプットとなっているかなど設計家という職業の一端を知る機会となれば幸いです。

撮影:Y.Harigane(TechniStaff)

「病院らしくない病院を」という、細かな点を除いて唯一とも言える先生のご要望を受け、入りやすく居心地の良い、来院するだけで元気が出てくるような医院づくりを目指しました。
高さ3.5mの全面ガラス張りの待合が道路側へ大きく開くような配置と、内外に連続する柔らかい曲面壁が、人の視線を自然と内部へと誘導します。天井の低い風除室を抜け待合に入ると、ガラス面から降り注ぐ光を背に、暖かみのある木調、元気の出るオレンジと差し色のスモークブルー、清潔感のある白色で構成されたインテリアが迎えてくれます。受付はローカウンター式とすることで親しみや広がりを感じさせるように考えました。コーナーの木格子は、構造、ディスプレイ、目隠し、そして延長部ではベンチ座面として様々に機能するよう考案しており、医院に馴染むシンプルなデザインとなったのではないかと思います。

動物病院とは、医療施設である一方で事業性を伴う商業施設です。計画では建築そのものがメディアとなるよう、信号待ちや国道を走る車、バスの乗客、自転車、歩行者からの建物の見え方を特に意識しました。
それは周辺とのボリュームバランスや配置のさせ方、プラン、サインの位置や大きさ、作り方、その下地となる壁の在り方やキーカラーの選定など、その土地その目的の建物がどう建ち得るかということの検討を重ねる中で進められます。
また、事業性という視点で言うとコストバランスも重要です。かけるべき価値のあるところには効果が期待できるだけの費用をきちんとかけ、その必要のないところ、または事業が回り出してからでもできることには費用を割かず、イニシャルコストを極力抑えるような計画としています。イニシャルを抑えることは借り入れや返済額が小さくなることを意味し、融資が下りやすくなったり、経営リスクが抑えられ、結果としてオーナー様やお施主様の生活や建物の存続をサポートすることに繫がります。

つい先日、開院2ヶ月後に医院に伺った際、居心地が良いと患者さんに好評ですとの嬉しいお話を頂きました。歩道沿いに植えた色とりどりのハーブの花も楽しげに咲いています。
建物は使われはじめてからがスタートです。今後ますます地域に愛され、利用され続ける動物病院となることを切に願いつつ、これからも見届けていきたいと思います。

今回は「医療・商業施設の目的」に沿った設計の一例をご紹介しましたが、「住宅の目的」は暮らすことです。暮らすことに対しての理想を心や体、本能に問いかけ、真正面から向き合うことで次第に暮らしの夢となっていきます。そうやって育まれた世界でたったひとつの夢を、家づくりをはじめるその時まで、どうか大切にして頂きたいと思います。

16動物病院 http://16animal.com